40代の女性が頭痛と下腹部の痛みで来院されました。
この患者さんは長年の激しい頭痛と腰痛、左下肢の痺れ(しびれ)と痛みで以前通院されていましたが頭痛もほぼ消失。腰痛と下肢の痛みも消失。小趾側に若干のしびれが残る程度にまで改善しましたので経過観察に移行しての状態でした。
下腹部の痛みは婦人科で受診したところ左の卵巣が腫れているためそれが原因ではないかと診断を受けたということです。
改善していた頭痛がなぜ再発したのかそこが問題です。
問診そして理学的、神経学的検査を行うと左中枢神経系のアンバランス状態でした。
しかし何故左中枢神経系がアンバランスになったのかそれが最重要な問題。
伏臥位で下肢の筋力検査を行っている最中に左右の外顆(外くるぶし)に傷跡があるのがなぜか気になり『このくるぶしの傷跡はどうしてできました?』とお聞きすると
一か月前に新しい靴で靴擦れができてしまい、それがなかなか治らないということでした。
その傷跡がどうも気になり傷跡に刺激をしてから中枢系の検査を行うとバランスが正常な状態になり頭痛と下腹部の痛みは2日後には消失。
患者さんはしきりに不思議がっていましたが神経学的には不思議な事ではありません。
傷跡は時に瘢痕組織を形成します。
瘢痕組織は正常な皮膚や筋組織と違い固く柔軟性に欠けているために弱い侵害刺激(痛みの素の信号)を発生することがあり、これが蓄積すると促通と言う状態を引き起こします。
痛みにおいての促通状態は全身の各部分の痛覚神経のレベル(静止膜電位を閾値に近づけて痛みを感じやすくなる状態)を引き上げてしまい痛みのスイッチを入りやすくしてしまい発痛を招きます。
ご自宅で左右の踝の傷跡にさするような刺激を30秒間毎日行っていただきました。
結果、頭痛は解消し下腹部の痛みも消え、産婦人科で再度受診したところ卵巣の腫れはおさまったということでした。
傷跡と諸症状の因果関係は神経学的には充分に説明はつきます。
しかし何故踝の傷跡が原因だと分かったのかと聞かれると・・・・・
『なんとなく気になったので・・・』としかお答えの使用がありません。
神経学だけで臨床を行うようになってから20年余り。
経験を積み重ねると何か理屈ではない『感』のようなものが働くことがよくあります。
『感』とは何とも曖昧で不確実な物言いですが説明は難しいですね。
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