『末梢神経絞扼障害』

神経と血管の通り道において筋肉と骨、筋と筋、筋肉と靭帯など神経線維が物理的な圧迫を受が原因で血流障害や神経障害による痺れ(しびれ)や痛みが現れます。運動障害の代表的な障害で末梢神経絞扼障害といいます。

1) 胸郭出口症候群

・斜角筋間間隙

斜角筋には前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋があり頸椎を出た神経は前斜角筋と中斜角筋の間を通り抜けます。前斜角筋と中斜角筋が収縮もしくは過緊張状態にあると神経を圧迫し障害されます。

前斜角筋と中斜角筋の間を血管(鎖骨下動脈、静脈)も通過しているために血流障害が引き起こされます。

腕、肩、頸部へのシビレ放散痛、手指の冷え感

・鎖骨下間隙

斜角筋を通り抜けた神経は鎖骨と第一肋骨の間を通過します。
鎖骨と第一肋骨の間で神経と血管(動脈、静脈)が挟まれ神経障害と血流障害が引き起こされます。
猫背やなで肩は鎖骨と第一肋骨の間が狭くなりやすい。男性に比べ女性の方が発症しやすい傾向にあります。

・小胸筋下間隙

鎖骨の間を通り抜けた神経と血管(動脈、静脈)は肩甲骨の内側を通ります。ここには小胸筋という筋肉があり鎖骨と小胸筋の間を通り抜けますがここが胸郭での最後の絞扼ポイントです。
デスクワークやスマホの操作、編み物や手芸など胸前での作業時間が長いもしくは多いと小胸筋が収縮し神経と血管が圧迫されやすくなります。
腕や手に行く神経が頸椎(首の骨)を出て鎖骨の下を通り上腕までの通り道で神経が圧迫される

2) 肩・首のシビレ痛み

・肩甲背神経の障害

頸側部から肩甲骨と背骨の間への痛みとシビレ。
時には手にまでの放散痛。
肩甲背神経は中斜角筋を貫くように通っており首を傾けると悪化するのが特徴です。

・肩甲上神経の障害

肩甲骨の強い痛み
肩に力が入らず関節の動きが悪くなる

・四辺形間隙症候群

肩の後面、上腕の後面の痛みとシビレ、時に脇の下のシビレと痛みも伴う。
脇の下に小円筋、大円筋、上腕三頭筋の間に菱形の隙間が形成されその間を神経が通過します。ここで筋が緊張を起こし圧迫されることで起きる障害です。

3) 腕のシビレ痛み

・回内筋症候群

肘の内側へのシビレと痛み
親指、人差し指、中指のシビレと痛み
肘から先の腕(前腕)を内側に回す回内筋が収縮し神経を圧迫することで起こる障害。

・前骨間神経症候群

手の親指と人差し指に力が入らなくなるのが大きな特徴
人差し指の先の関節が曲げにくく親指と人差し指で丸を作ることができない

・肘部管症候群

肘から指に向かい内側(小指側)にシビレと痛み
手の小指と薬指の小指側にシビレと痛み
親指の関節が曲げにくく親指に力が入りにくくものがつまみにくい
悪化すると親指と人差し指の間の肉が凹む

・尺骨神経管症候群

小指丘部から小指、薬指の掌側にシビレと痛み
親指、薬指、小指に力が入らず物が握りづらい。
悪化すると指が曲げづらくなり『鷲手』状態になる。
・橈骨神経絞扼障害
上腕の外側から前腕の背部、親指から中指の甲の付け根にかけてシビレと痛み
悪化すると手首が伸展できない『下垂手』になる

・手根管症候群

正確には手根管内での正中神経絞扼障害のことを言う。
手首の付け根に痛みがあるとほとんどが『手根管症候群』と診断される。
しかし本来の『手根管症候群』は母指球、母指から人差し指と中指の掌側。そして親指と人差し指、中指の甲側の付け根にかけてのシビレと痛み力が入らないなどの症状。
このほかにも血流障害などの酸素不足などによってもしびれや痛みが引き起こされます。

■腱鞘炎
腱鞘炎は痛みの出ている腱の問題ではありません。原因は筋肉の機能低下です。手首は伸筋、屈筋とたくさんの筋肉で動かしています。どの筋肉が問題を起こし腱が痛みを出しているのか筋力検査で一つ一つ調べ問題の筋肉を特定できなければ腱鞘炎は改善しません。また筋肉に問題を生じさせている末梢と中枢の神経バランスを改善しなければ再発を繰り返します。ちなみに、筋肉の両端が腱です、したがって全身のどこでも腱鞘炎は起こります。その他、手根管症候群・ばね指など、効果的に改善できます。

■ばね指
人さし指から小指までを屈曲させる深指屈筋・浅指屈筋と親指を屈曲させる長母指屈筋は前腕に位置します。手首付近で腱に移行し手の平を通り各指に付着します。腱を保護し動きをスムーズに行うために各指の付け根付近から指の腱鞘(けんしょう)に覆われます、この腱鞘と屈筋腱の動きが悪くなったり肥厚化したりする事で指の付け根に痛みが発生したり曲げた指が引っかかった様になり戻らなくなる状態を「ばね指」と言い腱鞘炎の一部です。
症状は指の付け根や指に現れますが原因は腱や腱鞘の問題ではなく腱を動かしている深指屈筋・浅指屈筋・長母指屈筋の筋腹に瘢痕組織や硬結が形成されたり血流・酸素不足で筋力低下が起きると腱に掛かる負担が増え腱が炎症を起こし症状を発生します。
改善するには筋肉の機能回復さらに筋肉に問題を生じさせた血流の改善、神経的な問題へのアプローチが必要となります。

■腕神経叢
尺骨神経の絞扼
肘部間症候群
ギオン管症候群
症状
・小指・薬指のシビレ
・運動障害は最初指の動きが、ぎこちなくなる。状態が進むと母指球が麻痺し鷲手と言う独特な手の形になる。
絞扼の場所は肘の部分と手首の小指側の2箇所。どちらが問題を起こしているか検査により判明させます
原因
・野球などの投てき行為
・パソコンなどの長時間に及ぶキーボード操作

正中神経の絞扼
円回内筋症候群
前骨間神経症候群
手根幹症候群
症状
・前腕肘付近の鈍痛と重だるさ
・小指・薬指・中指のシビレ
・人差し指が使いにくい
・前腕・手の平の夜間痛

橈骨神経の絞扼
症状
・肘・前腕の痛み

胸郭出口症候群
症状
・腕全体のシビレ痛み
・知覚障害
原因
斜角筋間間隙
肋鎖間隙(第一肋骨と鎖骨の間)
小胸筋間隙
以上の三箇所を腕神経叢(腕へ行く神経)が通るためにいずれかで圧迫絞扼され腕・肘・前腕・手首に痛みシビレが現れます

■ダブルクラッシュシンドローム
肩・肩甲骨・首に痛みが発生すると何でもなかった腕や肘・手首に痛みシビレが現れる事があります、これをダブルクラッシュシンドロームと言います。
神経細胞は軸索でタンパクや栄養を運搬しています。神経が絞扼されると軸索輸送が低下し、そこから先の神経が過敏状態になり他の部位に痛みやシビレが発生してしまうのがダブルクラッシュシンドロームです。

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