交感神経と副交感神経
副交感神経は休息やリラックスの神経、交感神経はその反対に逃走や闘争の神経と言われます。
しかし自律神経はそんなに単純な神経システムではありません。
自律神経は我々ヒトだけではなくあらゆる動物に備わっている環境対応システムです。
気温や気圧などの外部環境の変化。睡眠や摂食、生殖などの生命維持や傷やウィルスなどに対しての防御作用など環境や状況に対してその都度、身体を一番適切な状況に保つホメオスタシスの作用が自律神経の交感神経と副交感神経です。
交感神経と副交感神経の作用を以下の図に示します
頚部の自律神経 | ||
---|---|---|
交感神経亢進 | 臓器 | 副交感神経亢進 |
頚部交感神経 | 頚部 | 頚部副交感神経 |
散大 | 瞳孔 | 縮小 |
収縮 | 瞳孔散大筋 | ー |
ー | 瞳孔括約筋 | 収縮(縮瞳) |
弛緩 | 毛様体筋 | 収縮 |
分泌? | 涙腺 | 分泌 |
分泌・粘液性 | 唾液腺 | 分泌・漿液性 |
収縮 | 唾液腺血管 | 拡張(血管拡張神経) |
収縮・顔面蒼白 | 顔面血管 | 拡張 |
分泌 | 顔面汗腺 | ― |
収縮 | 立毛筋 | ― |
胸部の自律神経 | ||
---|---|---|
交感神経亢進 | 臓器 | 副交感神経亢進 |
胸部交感神経 | 胸部 | 迷走神経 |
弛緩 | 気管支平滑筋 | 収縮 |
抑制? | 気管支の分泌腺 | 刺激 |
心拍数増加 | 洞房結節 | 心拍数減少 |
収縮力と伝導速度の増加 | 心房 | 収縮力と伝導速度の減少 |
伝導速度の増加 | 洞房結節と伝達系 | 伝導速度の減少 |
収縮力と伝導速度の増加 | 心室 | ― |
拡張 | 冠状動脈 | 収縮 |
弛緩 | 食道筋 | 収縮 |
大内臓の自律神経 | ||
---|---|---|
交感神経亢進 | 臓器 | 副交感神経亢進 |
大内臓神経 | 大内臓 | |
弛緩 | 胃・小腸の平滑筋 | 収縮 |
収縮 | 胃・小腸の括約筋 | 弛緩 |
抑制 | 胃・小腸・脾臓の分泌腺 | 促進 |
収縮 | 脾臓 | ― |
グリコーゲンの分解 (グリコーゲンの新生) | 肝臓 グリコーゲン | グリコーゲンの合成? |
弛緩 | 胆嚢と輪胆管 | 収縮 |
抑制 | 腎臓の分泌 | 促進 |
促進 | 副腎髄質の分泌 | ― |
小内臓の自律神経 | ||
---|---|---|
交感神経亢進 | 臓器 | 副交感神経亢進 |
小内臓神経 | 小内臓 | |
弛緩 | 大腸 | 収縮 |
収縮 | 回盲括約筋 | 弛緩 |
下腹神経 | ||
---|---|---|
交感神経亢進 | 臓器 | 副交感神経亢進 |
下腹神経叢 | 下腹神経 | 骨盤神経 |
弛緩 | 膀胱排尿筋 | 収縮 |
収縮? | 内膀胱括約筋 | 弛緩 |
収縮 | 内肛門括約筋 | 弛緩 |
射精 | 男性生殖器 | 勃起 |
収縮 | 子宮 | 弛緩 |
収縮 | 外陰部血管 | 拡張(血管拡張神経) |
脊髄神経 | ||
---|---|---|
交感神経亢進 | 臓器 | |
脊髄神経 | 脊髄神経 | |
収縮 | 体幹・四肢の血管 | |
分泌(Ahc発動性) | 体幹・四肢の汗腺 | |
収縮 | 体幹・四肢の立毛筋 |
自律神経失調
概念
種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの
日本心身医学会
自律神経失調症と言う概念は東邦大学の阿部達夫教授が1961年ごろに最初に提唱したものです。
現在も医学界では独立した病気として認めていない医師も多く疾患名ではなく「神経症やうつ病に付随する各種症状を総称したもの」というのが一般的な国際的理解です。
自律神経失調症はギックリ腰や寝違えと同様に病気、病名としては存在しない『通称名』として一般的には認知されています。
自律神経が失調するということはどうゆうことなのでしょうか。
端的には身体が置かれている状況、環境に対して交感神経と副交感神経が適切に作用せず体内環境を一定に保つことができない状態です。
交感神経は暴走しやすい!
身体が危機に際した時、脳は生命存続のために交感神経を発動させるという究極の選択をします。
太古の時代、我々ヒトは捕食者に餌とされる被食者でした。
捕食者に遭遇した時逃げるか戦うかの選択に迫られます。
逃げるにしても覚悟を決めて戦うにしても力を出さなくてはならない。それには必要な組織にエネルギーの素である酸素と栄養(グルコース)を急いで届けなければならない。
そのために交感神経を発動させ血圧と脈拍を上昇させます。
また交感神経が働くことで手足に汗をかき滑り止めの役目を果たし、脳を覚醒させ意識をはっきりさせ集中力を高めるという効果があります。
このように太古の時代の生命維持反応が現代の我々に反射として精神的な不安やストレスなどが生じた時、脳は生命の危機と判断し交感神経を発動します。
末梢神経系において交感神経系は何よりも生命維持を最優先し常に発動しやすい状態にあるため普段は交感神経を抑え副交感神経を優位にする抑制制御機構が備わっています。
抹消での交感神経の中枢は胸髄1番から腰髄2番レベルの脊髄側角に存在する中間外側細胞柱(IML)です。
興奮しやすいIMLを脳幹網様体が抑制投射しています。
しかしその脳幹網様体は大脳皮質から興奮性の投射を受けています。
つまり大脳皮質(脳)の機能が低下すると脳幹網様体への興奮性投射が低下し脳幹網様体は機能低下します。結果脳幹網様体はIMLを抑制することができなくなり抹消での交感神経亢進つまり高血圧、脈拍上昇、血糖値の上昇が引き起こされます。
中には逆に副交感神経が亢進状態になっている場合もあります。
今の状態が交感神経優位なのか副交感神経優位なのかを神経学的検査で確実に把握することが重要です。
交感神経と副交感神経の状態を把握せず、無暗に刺激することは状態を悪化させ非常に危険です。
自律神経は環境に応じて身体の状態を交感神経と副交感神経が対局した働きで自動的に調整を行う神経です。交感神経と副交感神経がバランスよく働く事で健康な状態が保てます。
どちらかが過剰な状態になると下記のような症状が現れます。
交感神経が過剰に働くと
ドライアイ・ドライマウス・目が眩しい・血圧の上昇・心拍数の上昇・血糖値の上昇・多汗・消化不良・便秘・冷え症・排尿困難・インポテンツ・風邪・潰瘍・傷が治りにくいなど
副交感神経が過剰に働くと
体温の上昇・アトピー・アレルギー・蕁麻疹・ニキビ・気管の収縮・喘息・貧血・下痢・オリモノの過剰分泌・嘔吐・頻尿・射精困難など
自律神経と痛み
自律神経と痛みは密接に関係しています
痛みを伝達する神経線維と自律神経の節後線維は同じ疼痛線維であるC線維です(節前線維はB線維)
自律神経は神経節を境に節前線維と節後線維に別れます
節前線維は有髄で太く速度の速いB線維。節後線維は無髄で細く速度の遅いC線維で構成されています
交感神経は節前線維であるB線維が短く、節後線維であるC線維が長い。
副交感神経は節前線維であるB線維が長く、節後線維であるC線維が短い。
自律神経は気圧によって影響を受けやすく晴れた高気圧の時は痛みがなく調子がいいのは交感神経亢進状態になり、これにより交感神経の伝達物質はであるノルアドレナリンによる疼痛感覚の抑制作用により痛みが抑制されます、しかしこれはあくまでも短期的な効果であり交感神経亢進状態が長期に及ぶと節後線維のC線維が活性化され痛みの情報を脳に伝達し易くなります。
興奮状態・血圧が高い・睡眠不足・悩みや心配事を抱えている時などは交感神経が亢進状態にあるため痛みを感じやすい状態です。
糖尿病
糖尿病はインスリンが膵臓から分泌できないために血糖値を下げることができない病気です。大昔、空腹であっても、獲物を見つけたときに、すぐに追いかけなければなりません。そんな時交感神経が働き血糖値を上げ、身体を動ける状態にしました。この大昔の交感神経が血糖値を上げる働きが現代も残っており交感神経が過緊張な状態では、副交感神経は抑制され、インスリンの分泌も抑制されます。
成人型(II型)糖尿病は自律神経のバランスが崩れ、交感神経過緊張により引き起こされます。
糖尿病の人に血圧が高い方が多いのは交感神経過緊張のためです。
アトピー
アトピーは免疫力が亢進しすぎたために起こります。
副交感神経が亢進状態にあるとペアの関係にあるリンパ球が活発に働き、本来身体にとって害の無いものまで有害なものとして反応し体外に排泄しようとして起こります。
アトピー皮膚炎の人に喘息が多いのは、副交感神経は気管支を収縮させる働きがあるためです。
自律神経のバランス
自律神経の調整は大脳が行っています。大脳は交感神経の抑制と副交感神経の亢進をコントロールしています。大脳の機能が低下すると交感神経が亢進し、副交感神経が抑制され色々な問題を起こしてしまいます。
本来自律神経のバランスは交感神経に対して副交感神経が若干優位な状態が人間にとって一番バランスの良い健康な状態と言えます。
交感神経と副交感神経は相互に抑制関係にあり、どちらかが亢進状態にある時はもう一方は抑制された状態となります。
大脳の機能を正常化することで自律神経のバランスが保たれます。
本当に酢は体に良い?
酢は体に良いと言われていますが、なぜ体に良いのでしょうか?
酢の原料はクエン酸や酢酸です。酢は身体に入ると酸素と結合して身体を酸化させ錆びさせてしまいます。本来酢は体を酸化させるので毒として作用します。その毒である酢を体外に排泄しようとして副交感神経が働き、その結果として内臓の働きを活発化、血管を弛緩させ血液の流れを良くします。これにより便秘が解消され、血圧が下がり、体内の毒素も一緒に排泄され肌がきれいになり体調が良くなります。
酢は少量であれば副交感神経を活性化し体の本来のバランスを保つのに役立ちます。
しかし過剰な摂取は副交感神経が優位になりすぎ体調を崩す原因となります。
免疫力
感染から身体を守る自己防衛システムの働きを行うのは白血球です。
白血球には顆粒球とリンパ球とマクロファージの免疫細胞があ?ます。
顆粒球は真菌や大腸菌などを攻撃し細胞の死骸など大きいサイズの異物を処理します。
リンパ球はウィルスなどの小さなサイズの異物を抗体と呼ばれるタンパクを使って攻撃処理します。
マクロファージはサイズの大きな異物や細胞から出た老廃物を処理したり、異物の浸入を顆粒球やリンパ球に知らせる役目をします。
顆粒球とリンパ球はそれぞれ自律神経と密接な関係にあります。
リンパ球は副交感神経とペアの関係にあり片方が活性化されると、もう片方が働き出すと言う相互関係にあります。
例えば風邪をひいた時、体内に侵入したウィルスをリンパ球がやっつけます、その時リンパ球が一番活動しやすいのは体温が38度~39度の状態です。
リンパ球が活動し始めると副交感神経が活性化され体温を上げリンパ球の活動を援護します、その時随伴症状として発熱・鼻水・咳・下痢・嘔吐などが現れます。
風邪をひいた時の辛い症状はリンパ球が風邪のウィルスと一生懸命戦っている時の表れです。
解熱剤で熱を下げてしまう事はリンパ球の働きを低下させ風邪の治りを遅らせることになります。
風邪をひいた時は熱を下げず、体温を上げリンパ球を活性化させウィルスをやっつけましょう。
ただし、体温が42度以上なると脳のタンパク質が凝固し始めるので注意が必要です。
今、ガンをよくする目的でで笑ったり、目標を持ってそれを達成させたりする療法法が注目を集めています。
笑ったり充実感を持つことで副交感神経が活性化されこれに伴いリンパ球の働きが活発になりガンを自己の治癒力で克服しようと言うものです。
顆粒球は交感神経が働くと活性化されます。
空腹状態、興奮状態、身体を激しく動かしている時などは交感神経が優位に働いている状態であり、このような時は同時に顆粒球の数も多く活発に活動します。
顆粒球の寿命は2~3日しかなく、死ぬときに活性酸素を分泌します。活性酸素は体内を酸性にしたり、粘膜を傷つけたりします。
身体が交感神経が優位な状態が続くと活性酸素が体内で多量に分泌されることになります。
ステロイドと交感神経
アレルギーやその他の薬としてよく用いられるステロイド剤。
ステロイドは副腎に作用してアドレナリン・ノルアドレナリンを分泌させ交感神経の働きを促し心拍数を上げ血液の流れを速くし、血糖値を上げ元気にし、皮膚の炎症、痒み、痛みを抑えてくれます。
しかし、それは一時的なもので長期にステロイドを使用し続けると、交感神経が働き続け亢進状態になり血圧は上昇し血流が低下、必要が無いのに血糖値が上がったままの状態が続き、分泌物は抑制され代謝機能が低下するなどの状態になります。
ステロイドは興奮作用により諸症状を抑制する薬です。
短期的に適正な使用量であれば大きな効果を発揮しますが、長期的な使用は身体の本来持っている代謝、免疫力などの生体システムの働きを低下させてしまいます。
鎮痛剤と風邪薬
鎮痛剤の効能書を見ると鎮痛効果の他に解熱・喉の痛みを伴う上気道炎とあり風邪薬と殆ど共通の効能があります。
実は風邪薬と鎮痛剤はほぼ同じ成分です、しかし風邪と痛みは同じものではありません。
同じ種類の薬で痛みと風邪に効果があると言うことは共通の目的を持つということです。
それは交感神経を働かせる事、自律神経と痛みの項でも述べたように一時的に交感神経が亢進状態になるとノルアドレナリンの作用で痛みの抑制効果が働くのと同時に血管を収縮させ一時的に血流が早まり標的器官に酸素を運びより鎮痛効果を高めます。
また免疫力の項で述べたように風邪のウィルスをやっつける為にリンパ球が活動しやすいように体温を上げる働きを行っているのは副交感神経です、したがって熱を下げるためには交感神経を亢進させると副交感神経は働きが低下し熱は治まります。
鎮痛剤も風邪薬も交感神経を亢進させる目的を持つ興奮作用を促進させる薬です。
生体システムの基本は体内環境を体外環境に合わせ調整することです、そのシステムをコントロールしているのは自律神経系です。
薬は自律神経系を外から強制的に制御するものです。